LOGINはぁ……。溜息が漏れる。公務とはいえ都市間の関税や、輸出入品の値段設定など、都市長や各ギルドの代表者達と取り決めを交わす。正直言って退屈極まりない。それが王族の務めだとしても。
私も自由に世界を旅したり、色々な人と出会ってみたい。そう冒険者、あの方とあって以来私の心はずっとかき乱されている。颯爽とピンチに現れて、賊共を一網打尽にし、王国の闇も暴いてみせた美しい剣士。あんなにも美人なのにぶっきらぼうな口調で、自由奔放な振る舞い。なぜだかとても懐かしい……。あんな綺麗な人、記憶にない。だがあの行動力や話し方、理不尽に立ち向かう姿勢、すごく似ている。
この世界に王女として生まれて、もう18年。この数日やたらと夢を見るようになった。こことは違う世界、いつも手を引っ張ってくれる1つ年下の男の子……。これが何の夢なのか、それとも自分の記憶なのかわからない。いつもあと少しのところで途切れてしまう。それ以上先は見てはいけないかのように靄が掛かっているのだ。もしかして前世の記憶? いや、そんなものあるわけがない。そんな人間いるはずがない。でも懐かしい……。
早くまたあの方に会いたい。この気持ちは何なのか、自分の夢との繋がりは? 漠然としてて確証なんてないのに、会いたいという気持ちが止まらない。魔眼を見てしまったから? いや、効果はすぐに消してくれた。それとも私は同性愛者だったとでもいうのだろうか? そんなはずはない、今まで他の女性にそんな感情を抱いたことなどない。あの方だけが特別なんだ。それに懐かしい面影……。
先日冒険者ギルドの支部長から、突然の面会があった。事件当日の夜だ。あの方が手回ししてくれたのだとわかった。王国内の問題解決まで護衛についてくれる、嬉しい。もう犯人はつかめているようなものだし、あっという間に解決してしまうかもしれない。
でも、そんな国の一大事だというのに私はただあの方に会いたい。夢を見始めてから、自分の王族という立場に恐ろしく場違いな思いを感じるようになった。勿論表面上は王族として振舞ってはいる。だが酷く場違いな居心地悪さを感じるようになってきたのだ。自分はそんな風に上に立つような人種ではない、普通の人間だという思いだ。会いたい。そしてできれば王女という窮屈な場所やしがらみから私を連れ出して欲しい。あの人がわたしなら簡単にやってしまうのだろう、そんな意味のない確信がある。いつも手を引っ張ってくれたあの子のように。なぜならあなたを思うだけでこんなにも胸が張り詰めて苦しくなるのだから……。
1週間、ずっとこんな気持ちのままなのかな? あの人の屈託のない笑顔を再び目にするまで……。
「それは……、苦しいなあ……」
そう思いながら、アーヤは都市長の屋敷の窓から空を見上げた。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 死屍累々。討伐も済ませ、自己の鍛錬もひと段落ついた俺は、三人の修行している場所に休憩がてら戻ってきたところだ。そこそこの数も狩ったので、経験値共有化状態の二人のレベルも15ほど上がっている、まあ順調だな、目の前の景色を見るまでは。エリックとユズリハ、二人とも俯せにぶっ倒れている。 ゼエゼエと荒い息を吐いているので生きてはいるな。アリア何をやったんだ? 修行どころか死にかけてるじゃないか。「うーん、もう終わりですかー? ほらほら立って立って、こんなんじゃあ修行になりませんよー」
犯人は長めの木の枝を持って嬉々としている。あの枝で相手してたのか? エグイな。
「おーい、休憩がてら戻って来たけど……。ナニコレ??」
こっちに気付いたアリアはブンブンと手を振って来る。「ハーイ、カーズ! 言われた通りに稽古をつけてたんですよー」
褒めて褒めてって感じで見てくる……。この構ってちゃんめ!
「いや、まあそれはありがたいんだけどさ。これやりすぎじゃないのか?」
「木の枝で加減したのになあ~?」 「いやいや、木の枝でそんなになるか? どんなしごきかたしたんだよ?!」 「まあ対人稽古ですよ、実戦形式の。今回は任務的に対人が想定されるでしょうしねー」 「確かにそれはあるな、でもちょっとやり過ぎだろ? 回復させてくるよ」 「うーん、他人には甘いんですからー。自分には厳しいのに。まあそういう人だからですけどねー」アリアから離れて、二人に回復をかける。全回復したようで、二人とも起き上がる。
「悪い、カーズ助かったぜ」
短い金髪を掻くエリック。
「ありがとうカーズ!」
二人からの礼を受け取る。
「どんな修行してたんだよ?」
「ずっと2対1での実践稽古よ。でもアリアさんとんでもないわ。何一つこっちのやることが通用しないんだから!」そりゃあ、あれでも神様だしな。実力的には俺も瞬殺されるレベルだ。しかも義骸入りというハンデ付き、本物はもっと想像もつかない化け物だ。ステータス見ただけで普通の相手は恐怖に足が竦むだろう。隠蔽して見えないから普通の人に見えるだろうけど。
「お前にも当たらなかったが、あの人には輪をかけて当たる気がしねえ。軽くなった分スピードは増してるはずなんだがな。しかもあの小枝でバルムンクを受け止めるんだぜ、意味わからねえよ」
やれやれといった表情のエリック。うん、それは俺にも意味わからんよ、現場は見てないしな。
「よっしゃ、回復もしたし、まだこれからだ! いくぞ、ユズリハ」
「ええ、一発は当てないとね!」それはまだ一発も当たってないということだな、うん。
「じゃあ俺は休憩がてら見学しとくよ、頑張れ」
「ああ!」 「ええ!」 「お、続けますかー? (*´艸`*)ウフフー、ではまたおいでなさーい」腹立つ言い方しやがる……。狙ってやってんのか? 二人がアリアへと間合いを詰める。
さて、格上相手にどう戦うのか俺も気になる。見取り稽古といこうかな。お、仕掛けたのはエリックか。バルムンクで斬りかかるが、驚いたのはアリアの動きだ。足はその場から一歩も動かないで上半身のみで躱す躱す! 「すっげー、俺はさすがに足は多少動かしたぞ。しかもあのときの大剣よりもスピードも乗ってるし」 「くっ! 当たらねえ!」 「ただ振り回しても当たりませんよー。相手も当たりたくないんですからー。相手の動きの先の先を読まないとー」簡単に言うなよ…。どんな達人の領域だよそれ…。
「下がってエリック! ファイアボール!!」
エリックがバックジャンプで距離を取った瞬間、ユズリハの杖から炎が巻き起こる。3発の火球だ、これは捕らえただろう?
「詠唱してる内は発動しますって教えてるのと同じですよーって、さっき言わなかったかなー?」
アリアが左手をかざすと直前で火球が凍り付き、パキィーーン! と落下して砕けた。あの瞬間に逆属性で相殺したのか? しかもあれは魔法じゃない、氷の魔力を同じ威力で放出しただけだ。なんて緻密な、とんでもない魔力コントロールだ。
「なっ、届きもしない……!」
「うーん、詠唱するならこれくらいはやらないとー。ファ・イ・ア・ボー・ル!」 そのまま左手の5本の指先に5つの火球が具現化する。おいおい、なんだそりゃw「ほいっと!」
5発の火球がユズリハへと放たれる。こういう魔法戦闘は色々学べるな、どうするんだユズリハ?
「くっ! ウインドバリア!」
ユズリハを中心に緑色の風の防護膜のようなものが展開される。
ドドドドドンッ!!!
5発の火球は防いだが、防御膜はズタズタだ。
「ほいっ!」
同時にまた5発、アリアの指先から同じものが放たれる。これは嫌な攻撃だなー、初級でも連発されると厄介だ。
「ファイア・ウォール!」
今度はそこそこの厚さの炎の壁か、どうなる? すると炎の壁に火球が吸収されて消えた、なるほど同じ属性だとこういうことも起こるのか。
「ア・ク・ア・ヴァレッ・ト!」
同様に今度は水の弾丸か、これは相性が悪いな。
「も、持たないっ! キャアッ!!」
ドドドドドンッ!
炎の壁を貫通して、魔力で圧縮された水弾がヒットする。魔力を体に張って防御していたようだが、これは痛いな。ただの魔力と錬成された魔法とでは強度が違う。膝をつくユズリハ。
「ス・トー・ン・ヴァレッ・ト!」
おいおい、まだ追撃するのか? しかも石弾だぞ、やり過ぎだろ! 今度は物理的にも絶対痛い! だがユズリハは避けようとしない、火と風じゃあ相性悪いぞ。
「ああああああああァッ! アイスシールド!!!!」
杖を足元に突き立てると、その場に氷の盾が現れる!
ピキーーーン!!
おお、薄いが氷の防御盾だ、しかも逆属性だぞ!
ドガガガガッ!!! パキィィーーン!!
石弾を何とか相殺した、やるなあー。
「やりましたねー、ユズリハー! 属性の壁を超えましたかー-!」
「ハァハァ、お陰様で……。イメージね、イメージの具現化……。意外と、やれるもんなのね……」パタリとその場に倒れるユズリハ。凄いなあ、もう逆属性を使えるようになるとは。だがあんなに追い込まれたら死ぬかやるかしかないか。なんつー稽古だ。でもユズリハはある意味壁を破ったようなもんだ。成長したという点で稽古は成果ありだな。
「やったな、ユズリハ! 俺も負けてらんねーぜ!」
バルムンクを構え直すと再び突進するエリック。うーん、それだとまた同じ展開だぞエリック。何か策があるのか? 大剣の弱点をある程度補えるように創ったバルムンク。しかしエリックが戦い方を変えなければ意味はない。アリアの指導も気になるな。面白そうだ。
俺はユズリハを回収して回復させてから、二人で稽古の行方を見送った。
黒く重々しい空気が周囲を包む。オロスから姿を奪った恐らくは上位の魔人、その悪魔から呪いの様に埋め込まれた悪を具現化したような因子。倒れた元団長格の2人の体からその禍々しい瘴気が立ち昇る。「クカカ、マダ……終ワランゾ……」 全身をドス黒く染め、赤く目を光らせながらのそりと立ち上がるカマーセ。「ククク、我ラハ王家ヘト……復讐ヲハタス」 同様に立ち上がるコモノー。もはや人間だった面影も確固たる意識すらもない。悪意そのものが蠢いているのだ。体中から瘴気を撒き散らし、辺り一帯を黒く染め上げていく。周囲の人達はそれに飲まれて苦しみ始める。「エリック、魔力を全身に!」「おう、くっ……確かにこいつらと向き合ってるだけで吐き気がするぜ。あの二人から対処法を聞いてなけりゃヤバかったな」 二人は精神を集中させ、全身に魔力の防御膜を張り巡らせる。「クレアさん、周囲の人達を非難させて! 悪意に飲まれるわ!」「魔力が使える奴は自分の周囲に魔力を張れ! 気分が悪くなるぜ!」 二人の大声の指示を聞き、恐怖を振るい去って全力で魔力を張るクレア。そしてそのまま騎士団に指示を出す。「この二人の言った通りだ! 魔力でガードしろ! そして周囲の人々の避難に回れ! 決して近づけるな!!」「「「「「ハッ!!!」」」」」 クレアの声で我に返った騎士達は各々の魔力を発動させ、周囲の人々の避難へと駆け出した。だがクレアは二人の背中から目が離せなかった。「あの二人に何かあれば私が戦わなくてはならん。しかし何だ……あの姿は? 魔人……。彼らは最早人ですらなくなってしまったというのか……?!」 だがその責任感のみで留まろうとするクレアにユズリハが叫ぶ。「クレアさん下がって!! 近くに寄るだけでも危険よ!!」「……っ、ああ、済まない。そうさせてもらう。お二人共、ご武運を!!」 彼らがそこまで言うのだ、大人しく引き下がるしかない。自分の無力さに歯ぎしりしながら後ろへ避難するクレア。「さてこれからがメインディッシュってことだな」「食べ物に例えたくはないわね」 二人が武器を構える。「アリアさんの指示通りいくぜ!」 構えた武器に聖属性の魔力を纏わせる。訓練の成果だ。本来魔導士のユズリハは勿論のこと、エリックも魔力コントロールは鍛錬してきた。「こいつらは正気を失ってる、ゾンビと同じよ
クレアを先頭に騎士団に囲まれながら馬車を飛ばす。飛ぶが如く! 入口はクレアの御陰で苦も無く突破。今は王城へ向けて全速前進中だ。エリックにユズリハは既に御者のおっちゃんの隣で出撃準備も万端だ。俺は馬車の上から探知、鷹の目、千里眼で城下町の街道周辺を探索中だ。街の人々は何事だ?って感じでこちらを見ている。 確かに民たちに元気がない。くそっ、普通に暮らしている人達を巻き込みやがって! そして前方に騎士団が待ち構えているのを捕らえた。「来た! 予想通り騎士団だ、数は約100、鑑定したところ団長も副団長もいる! あと5分もすれば接敵だ、任せたぞ二人とも、それにクレア!」 集中し俺に出来る最大限のバフを三人にかける、アクセラレーション、パワーゲイン、ファイアフォース、ダイヤモンド・アーマー、マジック・リリースにリジェネレーション。三人の能力値が大幅にアップする。「ありがとう、カーズ!」「ああ、問題ない。死ぬなよ!」「ここは任せときな!」 騎士団が前方に迫ると二人は馬車を飛び降りる。と同時に疾風の様に騎士団の間を潜り抜け、エリックは団長のカマーセ、ユズリハは副団長コモノーの前へと駆け出し、一瞬で1対1で対峙する構図を作り出した。いいね、作戦通りだ。「何だ、こいつら!? 一瞬で目の前に」 驚きを隠せないカマーセ。「わ、わかりません、突然目の前に!」「おっと、どうせ王女暗殺未遂なんてベタな濡れ衣で捕獲しようって作戦だろ?」 ニヤリと笑うエリック。「バレバレなのよ。ウチの大将の予想通りね」 おい、大将って誰だよ?「くそっ、なぜこちらの作戦が漏れている!?」 焦るカマーセ。そらバレるっての、それくらいしかネタがねーだろ、ガバガバなんだよ!「おい、お前達! こいつらはアーヤ王ッ、むぐぐ……」 コモノーが声を出せなくなる。「どうしたコモノー?!」「く、口、が……ッ?!」「汚い口は塞がせてもらったわよ。サイレンス。余計な指示など出させない」 おお、ナイス判断、ユズリハ。「こいつ、無詠唱だと?!」 焦る一方のカマーセ。「お前らはここで終わりだ。ウチの大将の邪魔はさせねーよ」 だから大将って誰だよ。まあいい、上手く団長格の行動は
あと約半日、恐らく昼頃には王国に到着する。 俺達は馬車に揺られながら最後の作戦会議中だ。本物のオロスからの情報によると、宰相のヨーゴレ・キアラ、こいつが事を起こしているのは間違いない。しかしひっでえ名前だな、汚れキャラかよ。もうネーミングに悪意を感じる、おもろすぎるだろ。名は体を表すとはいうけどね……。おっと脱線。 どうやら王位に就きたいというような愚痴を常日頃からこぼしていたらしい。オロスはそれを宥めていたようだが、約一か月程前に魔人を名乗るものに襲われ、姿を奪われたということだ。それ以降はその魔人の手足となって動かされていた。宰相のその欲望に上手くつけ込まれたということだな。しかし権力ねえー、いやーほんっとにどうでもいいなあ。 奴らは国を乗っ取るために、急激に税を上げるなどのあからさまに強引な政策を行った。おそらく魔人の能力で人間の僅かな悪意を増長させたのだろう。国民は疲弊し王家への不満が高まっているらしい。 そういった負の感情が魔人には堪らなく美味であり、それらを集めることが魔王復活の引き金に繋がるということらしい。魔人にされていた本人が言う言葉だし、真偽は明らかだ。 そんな折にアーヤの単独の公務での中立都市訪問が重なったため、中立都市近郊の盗賊共を闇魔法で操り、国外での暗殺を謀ったということだ。そしてこの責任を中立都市に押し付け、国内に混乱を巻き起こして国民の不満感情を煽ることで反乱を起こし、配下の騎士団、その団長カマーセ・ヌーイと副団長コモノー・スーギルに王族を暗殺させ、一番末の王子ニコラス、まだ10歳にも満たないらしい、その子を国王とし、傀儡政治を行おうとのことだ。 だが、アーヤは俺が運良く救出したため、その策略が頓挫した。どっちにしろ結構お粗末な陰謀だ。古代の文明レベルだよ、俺からしたら。しかも自分は王になれねーじゃん。古代文明並みの超低レベルな策略、アホ臭い。ということで恐らく次の策謀を考えているであろうということだ。しかし今度はかませ犬に小物過ぎかよ、一発芸人かこいつら? クラーチの人の名前ってネタなのか?「プププ、クラーチの人は変わった名前が多いんですよねー」 とアリアは笑っていたが、変のレベルじゃねーよ、悪意しか感じねーよ! 出会ったら笑ってしまいそうだわ。既にエリック達はバカ受けしてるしな。しかもギグスとヘラルドに、「お前
「オロス、アーヤ王女の暗殺に失敗しただと! 一体どういうことだ!?」 激高した表情で怒鳴りつけるまだ20代後半の男。国の政務を一手に任され、若くして宰相の位まで上り詰めた天才と言われるヨーゴレ・キアラ。しかし若くしてその才能を発揮するも、それ以上の権力、王族にはなれないことが野心家の彼には我慢ならなかった。「ククク……、どうやら中立都市の方で邪魔が入ったようで。更に帰還中も中々やり手の冒険者共が護衛に就いているようですな。いやはや、ゴロツキ共には荷が重かったようですなあ」 オロスと呼ばれた男はさも愉快であるかのように笑う。その動きはどう見ても人間の動作にしては薄気味悪い。もちろん魔人が入れ代わったものだ。本物は既にカーズ達に保護されている。「おのれ、腐った王族共が……。運がいいことだな」 どれだけのことを成し得ようとも、世襲制である王家を差し置いて自らが王になるなど不可能なことだ。ただの穀潰し、王族に生まれたということで何もかもが約束されている。何の苦労もせずに王位を継ぎ、そんな奴らに頭を下げ続けなければいけない。次の王に相応しいのは自分のような人間であるという過剰に狂った自意識。そんな彼が魔人に付け込まれるのはある意味当然の末路だったのだろう。「クククッ、どの道あの小娘もここに帰ってきます。恐らく証拠の類を持ってね。如何にして切り抜けるおつもりですかな。監視につけていた私の部下も捕らえられたようで、いやいや、中々の手練れですなあ。お見事お見事」 オロスを名乗るその男はこの混乱を楽しむようにヨーゴレを煽る。「お前の案に乗ってやったというのに……、このままでは王女が帰還したら全て終わりだ。何か案はないのか?」「ではまた騎士団を使いますかな? ここのところの不況もあって国民の王家への不満は高まっておりますしなあ。まあその状況を作ったのは貴方ですがね、ククク」「騎士団をどうするつもりだ? 下級騎士を無理矢理護衛に任命させたことで内部で分裂も起きているのだぞ」「ククク、ではその不満分子共、あの女副団長には軍を率いて遠征に出てもらうことにしましょう。魔王領の調査という名目でね。国王の命もあと僅か、騎士団が分裂すれば大魔強襲の守りは手薄になる。その混乱に乗じて国民の不満を逸らすために全ての責任を王家に負わせ、抹殺すれば良いではないですか
さて、約束の日になった。俺はエリック達、それと俺の師匠兼姉設定のアリアと共に、ギルドマスターの部屋でアーヤ一行と最後の打ち合わせを終え、馬車へと向かうところだ。「カーズ、そしてアリア殿、王女とこの馬鹿共をよろしく頼むぞ」 エリックにユズリハ、酷い言われようだな。それだけ付き合いも長いんだろうしな。「「うっさい、ジジイ!」」 この二人、やっぱ息ぴったりだな(笑)「はーい、お任せあれー」 軽いアリア、平常運転だ。冒険者登録はしてないが、俺の姉で師でもあるとのことでステファンも同行することに異議はなかった。お主の師なら問題ないじゃろ、ってことだ。エリック達が強く推薦したのもあるけどね。「わかりました、やれることはやってきます」 馬車で待っていたのは護衛の2人、優男のギグスに、大柄なヘラルド。騎士の鎧に身を包んでいる。「久しぶりだな、嬢ちゃん」「息災で何よりだ」 説明が面倒くさいので、俺が男だと魔眼で認識を書き換えておいた。それでもギグスの嬢ちゃん呼びは変わらないのだが……。「ちゃんと護衛の任務は果たしたみたいだな」 俺の皮肉にも笑ってくれる、やっぱいい奴らだなこの二人。エリック達ともすぐに意気投合したようで、問題なく馬車に乗り込み、旅はスタートだ。騎士と冒険者とか、いがみ合いがありそうなテンプレ展開を予想してたが、この二人はそんな態度は取らずに楽しく対等に話している。 アーヤの側には侍女二人が付き添っているため、俺は特に話してはいない。必要があれば通信で会話はできるしな。 それよりもピクニック気分ではしゃぐ姉設定の女神が隣でとてもウザい。とにかく俺にベタベタしてきて、実にうるさい。食い物与えとこうかなあ。 そのせいでアーヤからは姉とはいえ微妙なジト目で見られている。なんだか実にいたたまれない、だが見た目は双子のようなものだし、誰も疑うことはないけどさー。静かにして欲しい。 それに結構豪華な馬車だがやっぱり揺れる、現代の車で快適な運転をしてきたせいでとてもお尻が痛い。フライで少し浮いて衝撃が来ないようにした。痔になりそうだしな。 俺は常に周囲に探知を張り巡らせて索敵しているし、馬車にもアリアが厳重に物理・魔法結界を張ってくれた。奇襲を受けてもまず確実に跳ね返される強度だ。 クラーチ王国に入るまで約3日、必ず奇襲があるということは、ハ
3日が過ぎた。俺達は約4日後の任務に備え、毎日クエストがてらに街から離れた場所で鍛錬中だ。要するに毎日アリアにしごかれてるってことだ。毎回俺は死にかけてるけどね。1日1回の致死ダメージ無効の加護があるとはいえ、アリアは稽古中は容赦ない。毎日1回死んでるのと同じだ。今日は残り日数から計算して中日になるので、休息しようということだ。 目が覚めると、アリアはいつも通り女性化した俺にしがみついている。確かにこの体の状態だと女性的で柔らかいので気持ちがいいんだろう。だが毎日抱き枕にされるのも勘弁して欲しいものだ。 同じベッドで寝ててそういう気分にならないのかって? ならないね、全く。まず俺は女性に対してあまり良い思い出がない、だから基本的に関心がない。そしてこの寝相の悪い女神は確かに美人だが、俺と似たような外見だ、更に中身もぶっ飛んでいる、手に負えない。そんな相手に劣情は抱けないだろ? 下手したら俺が襲われると思う。 まあそんなとこかな。あ、でもおっぱいは素敵だと思う。唯一女性の崇めることができる点、それがおっぱいだ、どこの世界でも世界遺産だと思う。はい、説明終わり! てことで俺にこんな厄介な因子を植え付けたこいつはギルティなんだが、恩人でもある。邪険にはできないんだよな。 因みに、まだ寝ているときのコントロールは上達しない、全くダメだ。王国までの恐らく泊りがけになる任務に臨む前に何とかしたいんだが、全くダメ。「笑えるほどにセンス0ですねー」 毎回鼻で笑うこいつにはその内何かしらのお仕置きだ。しかし参った、せめて胸が目立たない大きさならいいが、女性体になると邪魔になるくらいの巨乳になるのだ。隠しようがない。 一人部屋になるか、せめてアリアと同室ならいいが、王国までは馬車で約1週間の道のりになるらしい。馬車で寝泊まりするってことだ、非常にマズイ。もういっそバラした方がいいのか? いや、エリックは笑って済ますだろうがユズリハには絶対おもちゃにされるに決まっている。 おっぱいへの崇拝のせいでこんな変化になってしまったのだろうかね。拝むのはいいが、拝まれるのは御免だ。残りの時間練習するしかないな。 だが今日は1日オフだ。転生してこの数日ずっと鍛錬にギルド依頼と、ぶっちゃけバトルばっかりしているんだ。折角の異世界なんだし一人で街をぶらぶらと探索するのもいいだろう。







